ダイナミックオーディオは実は今年で55周年。皆様のおかげで長年オーディオのお仕事をさせていただいております。オーディオそのものの一般認知度が高いとは言えない昨今ですが、その中でもさらに”秘中の秘”とでもいうような品物が存在します。ぼく(企画室の佐藤です)も人よりは多くそういうものを見聞きしてきましたが、当店には更にその深淵をのぞいてきたスタッフが沢山おります。
そんななかのひとり、5555店6Fの東(アズマ)に、特に印象に残った機材に関して話を聞いてみました。
東 : 正直に書いちゃったら…まずいでしょう?
佐藤 : いやいや!(笑)正直なやつをお願いします。
東 : やっぱ衝撃受けたのはFM Acousticsだよね。あれは展示しちゃだめなのよ(真顔)、他のものが売れなくなっちゃう。でもそれじゃ商売になんないでしょう?
とあるオーディオショーで天板の開いた(内部構造の見える)状態の品物が置いてあった時に、名だたるメーカーのデザイナーたちがこぞって首を傾げてたらしいよ。何でこんなに小さくて軽いのに、あんな音が出るんだろうって。
佐藤 : なるほど構造を見ても分からない。でもなにがそんなに違うんでしょうね?
東 : 鳴り方がねぇ。余裕で鳴るよね。
佐藤 : それは単純なパワーということだけじゃないですよね?
東 : うんそうだね。なんつったらいいんだろうな。安心できる。ほっとする音だよね。
佐藤 : ええ。実際ぼくもそう思いました。聴いた時。…耳から入った音で脳が溶けるというか、言葉にできないですよね。
東 : 言葉で形容したってダメだよね(笑)。
佐藤 : やっぱりあの人(※)はすごいですか。
東 : すごいと思うねえ。会ったことなかったけ?
佐藤 : いやぁぼくはないです。
東 : かっこいい人だよ。ショーの時なんか、アナログのしかもモノラルでシステム調整してたからね。
びっくりしちゃうよね。
佐藤 : モデルでいうと最初にインパクトがあったのは?
東 : 810でしょ。EIコアが入ってるやつ。
ラインナップでも、高い方がちゃんと良いからまた困っちゃうよね(笑)。
だから興味本位で聴いちゃうのはよくないのよ。下手するとオーディオやる意味なくなっちゃうから。
佐藤 : …どうでしょう”本気の方”がいらしたら、お店に用意します?
東 : いや、持って行ってご自宅で聴いてもらうよ。あらかじめお話しをさせていただいてからね。
そういう品物だから。
佐藤 : ちょっと工業製品を超えてますよね。工業芸術というか。
(2020年7月17日 ダイナミックオーディオ 企画室 佐藤:文)
※)Manuel Huber(マニュエル・フーバー)
1973年にFM Acoustics社を起こした。そもそも音響および振動現象の分析のための研究機関であった同社がステレオ業界に登場したのは、空間の音響解析のために作られた実験機としてのアンプが、あまりに素晴らしくステレオ装置として機能してしまうことを音楽家によって見出されたことに端を発している。プロ、アマ問わず、世界中の音楽愛好家たちに支持されつつも、独立した研究機関としてのストイシズムは失われず、いまもってなおマーケティング重視の市場とは一線を画するモノづくりを続けている。そして、それだけの実力を持っている。